■「限界」は「あと一つ増えたら何が起きるか」

日常生活で「限界」という時は、「これ以上は無理です」という意味ですが、経済学では限界という言葉を違う意味で使っています。「あと一つ増えたら何が起きるのか」という意味です。

 

表は、寿司屋で何個寿司を食べたらどれくらい幸せか、という満足度を示したものです。1個食べれば500円分の満足、2個なら850円分の満足、3個なら1050円分、4個なら900円分の満足、というわけです。

 

1個目は空腹なので、とても満足です。2個目も、まずまず満足です。3個目は、それほど満足度は高くなく、4個目になると「食べたくないが、150円くれたら食べても良い」という事になります。これが「限界満足(経済学では限界効用と呼ぶ)」です。

 

 

総満足

限界満足

平均満足

1個

500

500

500

2個

850

350

425

3個

1050

200

350

4個

900

-150

225

 

さて、この店で寿司が1個180円だったら、何個食べますか?「4個食べた時の満足が900円分で、180円の4倍より大きいから、4個食べる」は不正解ですね。180円の4倍の代金を支払って900円分の満足ですから、代金を上回る満足分である「超過満足」は180円分しかありません。3個でやめておけば、510円分の超過満足が得られるのですから、そうすべきなのです。

 

これは、限界満足と値段を見れば、わかります。3個目を食べるか否かの判断をする時には、限界満足が200円で価格が180円ですから、食べた方が超過満足が増えるのですが、4個目は限界満足がマイナスですから、価格にかかわらず食べるべきでは無いのです。平均より限界の方が役にたつ、というわけです。

 

では、余談ですが、この店が「食べ放題900円」だったら、どうでしょうか。900円で1050円分の総満足が得られるのですから、超過満足が150円ですね。それなら行きますか?そのまえに確認しましょう。「食べ放題以外のメニューはありますか?」と。

 

たとえば、1個300円というメニューがあるならば、そちらを選んで2個食べましょう。600円で850円分の総満足なので、超過満足が250円分得られますから。食べ放題でも一個ずつでも一個あたり300円なので、一見すると損得が無いようにも思えますが、2個しか食べない、という選択肢がある事に気付けば、そうすべきですね。

 

■アルバイトを何時間雇うかを考える時、疲れて能率が落ちることも考慮

アルバイトの時給が1000円だとします。1個100円の製品を1時間で20個作る学生を雇います。材料費はゼロだとしましょう。

 

 

総生産額

限界生産額

平均生産額

限界生産コスト

1時間

2000

2000

2000

50

2時間

3200

1200

1600

83

3時間

3900

700

1300

143

4時間

4400

500

1100

200

 

もっとも、この学生は体力面で問題があり、時間とともに能率が落ちていきます。2時間目は1200円分、3時間目は700円分、4時間目は500円分しか作れません。そうであれば、2時間だけ雇うのが正しい雇い方だという事になります。

 

同じことを、製品1個あたりの生産コストの面から見てみましょう。32個目までは、1個83円で作れたので、作るべきですが、それを超えると1個あたりの限界生産コストが143円になってしまうので、作るべきでは無いのです。厳密には、2時間1分の時と2時間59分の時では作る速さが違うでしょうから、「2時間16分雇うべき」といった事になるのでしょうが。

 

■限界より平均を使わせたい場合もある

さて、以上は雇う側の論理ですが、学生にも事情があります。遠くから電車に乗ってアルバイトに来たのに、2時間だけしか雇ってもらえずに2000円しかもらえないのでは、不満です。そこで、「4時間雇ってくれるなら、明日も来ます」と交渉してみましょう。

 

会社にとっては、2時間だけ雇うのがベストですが、そういう選択肢が無いのであれば、4時間雇って4000円払い、4400円分の物を作らせる方が、雇わないより良いでしょうから、学生の要求に応じる可能性があるからです。その場合には、限界ではなく平均が物を言います。「平均生産額1100円は時給1000円より高いので、雇った方が得だ」というわけですね。

 

これは、上記の寿司店にも言えることです。寿司店が「当店は食べ放題だけです。1個300円といった売り方はしていません」と言えば、客は3個たべて900円払ったはずなので、そうすべきだったのかも知れません。

 

もっとも、この場合は、リスクを覚悟する必要があります。学生アルバイトの場合、会社から「それなら別の学生を雇うから、君は来なくて良い」と言われるかも知れません。寿司店なら「それなら他の店に行くから、さようなら」と言われるかも知れません。交渉には決裂のリスクがある、という事は忘れないように。

 

■実際には平均コストと限界コストを両方見る

上記のアルバイトが、当初1時間は訓練が必要だとします。最初の1時間のバイト代は、会社の持ち出しですから、限界生産力が限界費用を下回っていますが、それでも雇うべきでしょうか。それは、ケースバイケースです。

 

訓練すれば会社の利益に大きく貢献してくれる見込みがあるなら雇って訓練すれば良いですし、見込みが無いなら雇うべきではありません。訓練しても使い物になるか否かわからない場合にどうするかは、経営者の判断でしょうね。経営には常にリスクが伴いますから、本件も例外ではありません。

 

下の表の場合であれば、平均生産額が1000円を上回る部分がありますから、学生を雇うべきだ、という事になります。雇うべきか否かの判断は、平均を見るのです。その上で、何時間雇うべきかを判断する際には、限界生産量がコストを上回っている間だけ雇う、という事になるわけです。

 

同じことを別の側面から見るとすれば、平均コストが売値より下回る点があるか否かで雇うか否かを決め、限界コストが売値を下回っている間だけ雇う、という事になるでしょう。

 

ちなみに、バイトの時給が1067円を上回れば、そもそもバイトを雇うべきではありませんし、売値が94円を下回った場合も同様です。

 

限界と平均を両方見ながら判断する必要がある、というわけですね。

 

 

生産額

限界

生産額

平均

生産額

限界

コスト

平均

コスト

1時間

0

0

0

無限大 

無限大

2時間

2000

2000

1000

50

100

3時間

3200

1200

1067

83

94

4時間

3900

700

975

143

103

5時間

4400

500

880

200

114

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。

 

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